TOEICの勉強を始めた人の多くが最初に取り組むのが、単語の暗記。「そもそも単語の意味が分からないと、問題なんて解けるはずがない」という考え方は、一見正しいようにも思えます。

しかし、単語の勉強をしたもののTOEICのスコアはまったく上がらないという人が、実は少なくありません。

単語の暗記中心の勉強で失敗する大きな原因は、私たちがイメージする単語力と、TOEICで本当に必要な単語力との間に大きなギャップがあるからなんです。

TOEIC満点50回講師のテッド寺倉が、TOEICに必要最小限の単語数と、スコアアップに直結する単語の学習法についてまとめました。

TOEIC対策に必要最小限な単語力とは?

TOEICの単語の難易度

TOEICテストに対応するためには、何語くらいの単語を知っておく必要があるのでしょうか。それを調べるために、最近の過去問テスト5セット(韓国から入手)のテキストデータを抽出し、それらの単語の難易度を測定しました。難易度の判定には、SVLという頻出英単語12,000語のリストを採用しました。このリストを参照すれば、ある単語が「すべての英単語の中で何番目によく使われる単語なのか」を推定できます。

TOEICテストの過去問に含まれていた単語は、どの程度の難易度だったのでしょうか。その調査結果がこちらです。

最も多かったのは、1,000語レベルという最もやさしいレベルでした。これが全体の64.08%を占めています。次に多かったのが8.82%の2,000語レベル、その次が5.41%の3,000語レベルでした。

つまり、1,000〜3000語レベルという最も基礎的な単語がTOEICテストの約8割を占めているということになります。

ちなみに、3,000語レベルの単語でTOEICによく出るものの例を挙げると、appointment(面会予約)、confirm(〜を確証する)、expense(経費)、review(〜をよく調べる)、vehicle(車両)などがあります。

TOEICの語彙問題の難易度

TOEICテスト全体の語彙レベルは意外と低いことが分かりました。でも、「Part 5の語彙問題はやっぱり難しい単語も知っていないとダメなのでは?」と思う人もいるはず。

その疑問に答えるために、語彙問題だけに絞ったレベル判定もしてみました。対象は、同じ過去問5セットの中の語彙問題の正解選択肢だけです。これらの単語の難易度をSVLで判定した結果がこちら。

TOEICの語彙問題で8割正解するためには、4,000語レベルの単語の知識は必要ということが推測できます。先ほどのテスト全体を対象にした調査よりも1,000語分は語彙の水準が上がりました。しかし、それでも高校レベルと言われる4,000語で8割カバーできるのです。

ちなみに、4,000語レベルでTOEICによく出る単語には、accurate(正確な)、confident(自信に満ちた)、efficient(効率的な)、profitable(利益を生む)、reputation(評判)などがあります。

TOEICは単語力で制する?

圧倒的な単語力があれば、TOEICの問題が解きやすくなるのは事実です。しかし、暗記にはかなりの時間と労力がかかり、難しい単語になればなるほど覚えにくくなります。必死に覚えた難しい単語なのに、テストで出る確率が数パーセント以下となると、単語暗記型学習の費用対効果は高くないと言わざるを得ません。

よって、900点や満点を目指している人を除くと、TOEIC対策の単語学習は最低限でとどめておくのが効率的。具体的には、600点目標なら3,000語レベル、800点目標なら4,000語レベルまでの単語がストライクゾーンだと言えます。

TOEICの単語本に収録されている単語の難易度

「TOEICの単語を覚えるなら市販の単語帳で」と多くの人が言います。では、そのような単語本に収録されている語の難易度はどの程度なのでしょうか。某人気TOEIC単語本をサンプルにして調べてみました。難易度の指標は先ほどと同じSVLです。

この単語本の見出し語は、3,000語レベルまでの単語が全体の約3割と少なく、一方でそれ以上のレベルの単語は約7割と大勢を占めていました。TOEICの過去問と比べると、やさしい単語と難しい単語の比率がほぼ逆転していることが分かります。

つまり、平均的なレベルのTOEIC受験者にとっては、TOEICの単語本はレベルが高すぎるので、収録語を全部覚えようとするのは効率的ではないということになります。

もし単語本を使って学習するのであれば、本の前半に載っている基礎的な単語だけにフォーカスする方が効率的です。最もマズいのは、一冊を満遍なくやったけど、前半の単語もちらほら忘れているという状態。基礎的な単語はテストでの出現頻度がとても高いので、それらを知らないとダメージがとても大きいのです。

単語の意味は知っていてもTOEICで不正解してしまう理由

TOEIC対策にある程度取り組んできた人であれば、3,000〜4,000語レベルの単語はすでに知っているかもしれません。しかし、それでも800点に到達しない人が少なくありません。その原因は、TOEICに単語力だけでは正解できない問題が出題されているからです。それらの問題がどのようなものなのかを見ていきましょう。

リスニングで求められる単語力

単語力だけでは正解できない問題の最も分かりやすい例は、リスニング問題です。単語の意味は分かっていても、音声で聞いてすぐに理解できなければスコアにつながりません。リスニング問題では、単語の知識に加えて、瞬発力もなければ正解が得られないのです。

さらに、リスニング問題で多くのTOEIC受験者を悩ませるのが、音のつながりです。単語単体であれば聞き取れても、文の中で周りの単語とつながった状態で発音されると聞き取れないことがよくあります。

たとえば、remove(〜を取り除く)という単語は知っていても、リスニング問題では「ルムーヴォーライテムズ」(remove all items)のようにつながった状態の音声が流れてきます。これが聞き取れなければ、せっかく培った単語力もムダになってしまいます。

TOEICテストはリスニング問題が半数を占めます。よって、TOEIC対策のための単語学習は、意味だけでなく発音も同時に押さえるのが得策。そして、単語がつながった状態でも聞き取れるように、フレーズや文単位の音声を聞く練習を積むことが重要です。

語彙問題で求められる単語力

TOEICには語彙問題であっても、いわゆる「単語力」だけでは解けない問題が出ます。それらの問題では、語法に関する知識が問われるからです。

以下の例題を見てみましょう。ただし、解答のカギとなっているentireという単語の意味は先に示し、意味は分かっている状態にします。

entire 「全体の、すべての」

では、この問題を解いてみてください。

Mr. Lee’s retirement was sad news for the entire ——- of Watermark Consulting.
(A) tasks
(B) members
(C) system
(D) team

「すべてのメンバーにとって悲しい知らせだった」という文意を想定すると、(B)  membersが魅力的な選択肢に思えます。しかし、正解は(D) teamです。

entireという単語は、たしかに「全体の、すべての」という意味ですが、後ろには個別の「要素」ではなく「集合」を表す単語を取るという特性があります。よって、正解は「社員、メンバー」ではなく、「チーム」なのです。

このタイプの問題を攻略するためには、単語の意味に加えて、使い方(用法)の知識も必要です。単語の用法を身につけるためには、日頃からフレーズや文単位で英語に触れることをおすすめします

長文読解で求められる単語力

長文読解でも、単語の意味を暗記しているだけではスコアアップにつながりにくいケースがあります。その理由の1つは多義語です。

多義語とは、1つの語で複数の意味をもつ単語のこと。たとえば、representativeには「担当者」と「象徴している」という二つの意味があります。

では、以下の文の中ではrepresentativeという単語がどちらの意味で用いられているか考えてみてください。

Participants of the annual Axiom Conference are representative of the industry.

主語のparticipants(参加者)が「業界の担当者」では意味的に成立しません。「業界を象徴している」が適切なので、正解は「象徴している」でした。

単語の複数の意味は覚えていても、文中ではどの意味で使われているのかが分からなければ正解は得られません。また、自分が覚えた単語がちがう意味で出たときに、それに気付けることも重要です。

これらのことから、単語単体の知識だけではTOEIC対策には不十分だということが分かります。「単語はあくまで文のパーツ。それらが何を目的として、どう組み合わせられているのか」を常に意識しておく必要があります

TOEICのスコアに効く単語の覚え方

TOEICには明確な出題傾向があります。学校の単語テストなら、単語の意味を覚えるだけで点が取れるかもしれません。しかし、TOEICでは、単語とその周辺のつながりが理解できないとスコアがもらえません。そのようなTOEICの特徴を踏まえると、テストスコアに直結する単語の学習法は以下のようなものになります。

フレーズで覚える

単語の「意味」に加えて「使い方」も同時に身につけるためには、少なくともフレーズ単位で英語を見る習慣をつける必要があります。

✕悪い例  entire 全体の、すべての

◯良い例  the entire development team 開発チーム全体

良い例のようなフレーズで覚えることで、entireの後ろにはteamのような集合体を表す語句がくるという感覚を身につけることができます。

文で覚える

さらに欲を言えば、単語が使われている文全体も見ておくのが理想的です。そうすることで、その単語が使われやすい場面の雰囲気が身につきます。その「雰囲気」は、単語を覚える際に記憶の引っかかりにもなってくれます。英語学習は、こういったひと手間が積み重なって、大きなちがいを生むものです。

◎ もっと良い例 The entire development team worked hard / to make the product launch a big success.
  開発チーム全体が一生懸命働いた/その製品発売を大成功にするために。

 ↑大げさに強調したい雰囲気のときに使われるのが、entire。

音声を使って覚える

リスニングセクションでは音声を聞きながら意味を理解することが求められます。それが前提なのであれば、単語を覚える段階から音声を活用しておきましょう。

音声を聞いて自分でも音読する習慣がつけば、単語力だけでなく、リスニングやスピーキングのスキルも同時にみがきをかけることができます

先ほどの「もっと良い例」の文の音声ファイルを用意しましたので、試しに音読してみてください。音読には色々なやり方がありますが、参考までに1つのルーティンを記します。

文字を見ながら音声を聞いてリピート

文字を見ながら音声と同時に音読

文字を見ずに音声を聞いてリピート

文字を見ずに音声を聞いて少し遅れてリピート(シャドーイング)

自分ソロで音読

The entire development team worked hard to make the product launch a big success.

イメージで覚える

英文を読んだり聞いたりしたときに、皆さんの頭の中には何が浮かんでいますか。もし何も浮かばないようであれば、その英文の意味がうまく消化できていないかもしれません。

もう一度、先ほどの例文を読んで、その文が表していることをイメージしてみてください。

The entire development team worked hard to make the product launch a big success.
(開発チーム全体が一生懸命働いた/その製品発売を大成功にするために)

このように、英語を読んだり・聞いたりするときは、意識的に想像力を活性化させましょう。英文から連想するイメージは人それぞれです。自分の経験や聞いた話など、何でも構いません。文字や音声をイメージに変換できれば、それが記憶の定着と瞬発力アップを促進してくれます

ちなみに、私が上記の例文から想像したのは、こんなイメージでした。

おすすめのTOEIC単語本・教材と正しい使い方

おすすめの単語本:銀のフレーズ

TOEICの単語本といえば、大ベストセラーの「金のフレーズ(通称:金フレ)」が最も有名です。この本にはテストによく出る単語が1,000語(見出し語ベース)収録されていて、それらをフレーズで見ることができるのが魅力。一方、難点を挙げるとするならば、レベル設定が600〜990点目標とオールレベル対応になっていることです。難易度順に並んだこの本の後半部分は、600〜800点を目指す一般的なTOEIC受験者にとっては難しすぎます。

そこで、目標スコアが800点くらいまでの人には「銀のフレーズ(銀フレ)」の方をおすすめします。同じくTEX加藤さんの著書ですが、こちらの方が「金フレ」よりも難度が低く設定されていて、より効率的に学習できます。

「銀フレ」の見出し語を見ると、「こんな単語はもう知っている」と感じる人もいるでしょう。しかし、もしあなたがまだTOEIC 800点を達成していないのであれば、やはり「銀フレ」の方がおすすめです。そして、学習効果を高めるためのヒントは以下のとおり。

  1. 解説と類義語、関連表現にすべて目を通す
    たとえば、「銀フレ」の序盤にcoverという単語が「覆う」の意味で出ていますが、解説を見ると「報道する」「扱う」「含む」「補償する」という他の重要な意味も列挙されています。これらすべてに目を通しましょう。多義語や類義語も含めてはじめてスコアにつながる単語知識になります。
  2. 付属音声を使ってシャドーイング
    「銀フレ」の付属音声は、見出し語(英語)→フレーズ(日本語)→フレーズ(英語)x2回の順で流れます。これらの英語部分をシャドーイング(文字を見ずに音声に続いて音読)しましょう。自分で音読できない単語は記憶に残りにくく、リスニング問題で出てきても反応できません。「サッと音読できてはじめてその単語を習得できたと言える」と捉えましょう。
  3. Supplementにも目を通す
    おまけのように思われがちなSupplementですが、スコアに直結する単語がぎっしり詰まっているので、必ず目を通すべきです。「設問に出る単語・表現」や「部署・職業・専攻名」などは毎回のようにテストに出る表現ばかりなので、知らない単語がないようにしておきましょう。

*もう「金フレ」を持っているという人は、TOEIC800点獲得までは最初の500語程度に的を絞りましょう。数を絞って定着度を高める方がテスト対策には有効です。

単語本の正しい使い方

一般的な単語本は「レベルが高すぎる」のが難点ですが、それに加えて、「覚えにくい」という問題もあります。何の脈絡もなく羅列された単語を暗記するという作業は機械的で、人間の記憶にはなかなか定着しません

暗記型学習が自分には合わないという人には、単語本の位置づけをがらっと変えてしまうことをおすすめします。

単語本を辞書代わりとして使う

学習はTOEICの問題集メインで行い、単語本は辞書代わりとして使います。問題集で学習していて、「この単語はよくテストに出るの?」と思ったら、単語本を開いてみましょう。もし最初の方のページに載っていたり、「必修」扱いになっていれば(あきらめて)覚えます。もし載っていなければ、一旦スルーでOKとしましょう。

単語本はテスト直前対策用

単語本が一番効果を発揮するのは、テスト直前です。英語力を高めるには時間が足りないけど、何かはしておきたいテスト直前に単語本はぴったり。「直前に見た単語がたまたま出ればラッキー」という感覚で取り組みましょう。

TOEICの単語習得におすすめの教材:TOEIC問題集のリスニング

これまでに解説してきたとおり、TOEICのリスニングや長文読解にも対応できる単語力を身につけるためには、単語とその意味だけを切り出して暗記するというアプローチは効果的ではありません。

理想的なのは、TOEICによく出る単語が収録されていて、文脈があり、音声で聞ける教材。そう、それは公式問題集のようなふつうのTOEIC問題集のリスニングセクションなのです。スコアに直結する単語力を身につけるためには、TOEIC模試のリスニングセクションを活用することをおすすめします。

単語習得にリスニングセクションを使うべきもう1つの理由は、単語の難易度が適切であることです。リーディングセクションは高難度の単語も結構入っていますが、リスニングセクションは毎回テストに出るような超頻出単語ばかり。そして、それらはリーディングセクションにおいても必須の単語です。つまり、リスニングセクションに知らない単語がほとんどない状態を目指して学習すれば、TOEICに最適化された単語力を身につけることができるのです。

リスニングセクションを使った単語習得のやり方

リスニングセクションを使って単語力を上げるためにまず重要なのは、「どこで、誰が、何のために話しているか」をイメージしながら聞くこと。そして、そのイメージの中でそれぞれの単語がどういう役割や意味合いをもっているかを関連付けることです。

たとえば、warranty(製品保証)という単語が、店頭の会話で出てきたとしましょう。「電器店でお客さんがパソコンの修理を依頼したら、warrantyについて質問された」というように、会話のシーンと単語をひも付けします。このように単語の知識にイメージを伴わせることで、忘れにくい記憶に変えることができます

次に重要なのは、会話やトークの中の表現が、正解の選択肢でどう言い換えられているかを確認することです。たとえば、会話の中にfix a computer(コンピュータを直す)という表現が出ていて、それが正解の選択肢ではrepair a device(機器を修理する)と言い換えられているということがよくあります。このような言い換えをペアで押さえておくと、得点力の高い単語知識を身につけることができます。

また、トランスクリプトの文字はいきなり見ないようにしましょう。常に文字を見て学習していると、音に対する感度が上がってきません。英語の音に慣れているかどうかは瞬発力に直結してくるので、単語学習においても音をしっかりと聞くことが基本です。

まとめ

TOEICの8割は基礎的な単語でできている

TOEICに出る単語の8割は3,000語レベルの基礎的なもの。TOEIC対策には難しい単語の知識よりも、基礎的な単語がさっと運用できるスキルの方が重要

多くのTOEIC単語本は必要以上に難しい

TOEIC対策用の単語本には、テストに出る頻度が低く・難しい単語も多く掲載されている。目標スコアが800点程度までであれば、基礎レベルの単語に絞って学習する方が効率的。ただし多義語・類義語は要チェック。

TOEICは単語の暗記では制覇できない

多くの人が「TOEIC対策=単語の暗記」だと思い込んでいるが、実際には単語の意味を知っているだけで解ける問題は多くない。リスニングや長文読解、そして語彙問題であっても単語の意味プラスアルファの要素が求められる。TOEICを攻略するためのカギは、単語よりも広い範囲(フレーズや文単位)で英語に触れる習慣を作ること

TOEICに最適化された単語力が身につくのは、TOEIC問題集のリスニング

テストに毎回のように出る単語だけで構成されているのが、TOEIC問題集のリスニングセクション。リスニング問題の音声と選択肢を活用すれば、即戦力の単語知識を身につけることができる